大阪市内の「坂道」

 大阪市中心部には南北に細長い上町台地があり、名前の付いた坂がいくらか存在する。
 その中には名前がよく知られた坂や、名前があったことを忘れられた坂、別の名前に変わった坂、近年に新しく名前が付けられた坂などいろいろある。

天王寺七坂
 天王寺区にある七つの坂の総称。北から真言坂、源聖寺坂、口縄坂、愛染坂、清水坂天神坂、逢坂。いつごろから七坂と呼ばれるようになったか不詳だが、四天王寺七宮や大阪七墓などにあやかったのだろう。
 「てんのうじ観光ボランティアガイド協会」がスタンプラリーを実施しており、天王寺区民センターと七坂周辺社寺で台紙(100円)を購入できる。
→ 上六うえいくネット 特集 大阪 天王寺七坂を歩こう!

真言 生玉町の千日前通りの阪神高速高津入口付近から生國魂神社北鳥居へ上る石畳舗装の坂道。七坂で唯一、北から南へ上る。千日前通り(電車道)が開通する前は高津宮の鳥居の西側まで一体の坂道が続いており両社を結ぶ参道だった。明治期まで生國魂神社の北側に真言宗寺院が集まっていたのが坂の名前の由来。
真言坂の上り詰から下寺町交差点南東角の生國魂神社鳥居に下る坂は明治5年開通で新路と呼ばれた。
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源聖寺坂 下寺町1丁目の源聖寺の横から生玉寺町の銀山寺の横へ上る石段の坂道。途中緩くS字にカーブし、七坂の中でも屈指の雰囲気の良さ。石段なので基本的に車両は通れないが、自転車なら押し歩きできなくもないかなあ。坂の下の寺が名前の由来。
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口縄坂 下寺町2丁目の称名寺の横から夕陽丘町の珊瑚寺へ上る石段の坂道。石段なので車両は通れないが、ママチャリを押し歩きしている妙齢の女性を見たことがある。猫が多く、においが気になる。途中に府立夕陽丘高等女学校の碑がある。坂の名前の由来は3つの説がある。一番有名なのが坂の形を口縄つまり蛇になぞらえたから。次に大阪城の築城の際に測量のための縄打ちを始めた場所だったから。最後に寺町の入り口にある縄をつかまないと登れないほどの急坂という意味から。
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愛染坂 夕陽丘町の大江神社の南側に接するコンクリート舗装の坂道。自転車を含む車両通行禁止の歩行者専用道路なので、自転車は押し歩きでなら通ることができる。途中に料亭浮瀬亭跡地の案内看板がある。坂の上にある勝鬘院愛染堂(愛染さん)が名前の由来。近代以前は愛染坂の名前は見えず、代わりに勝鬘坂という名前が見られる。勝鬘坂は大江神社の石段のことらしい。
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清水坂 伶人町にある。学校と寺の墓地の石垣に挟まれたスロープ併設の石段の坂道。車止め(ボラード)があるため自動車は通れないが、原付が登っていくのを見たことがあるので自転車の押し歩きは難しくない。坂の上にある清水寺(新清水寺)が名前の由来。
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天神坂 伶人町から逢坂1丁目へ上る石畳風舗装の坂道。歩行者専用道路なので自転車は押し歩きなら通れる。戸建てが立ち並ぶ閑静な住宅街で、七坂の中では珍しく坂の名前をブランドとして押し出している。安井神社(安居天満宮)は落語「天神山」の舞台で、坂の名前の由来。大阪市建設局が2001年に安居天神の清水にちなんで湧き水のモニュメントを設置した。
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逢坂 松屋町筋と国道25号の公園北口交差点から谷町筋と国道25号の四天王寺前へ上る坂。案内看板と碑は坂の中ほど安井神社鳥居近く、北側歩道上にある。七坂の中では唯一の国道で交通量が多い。歩道は自転車通行可。かつては相坂とも書いた。坂の名前の由来は諸説あり、有名な逢坂の関になぞらえたとか。
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愛染坂(勝鬘坂)、『摂津名所図会』2巻より一部加筆

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清水坂、『摂津名所図会』2巻より一部加筆

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真言坂、『摂津名所図会』3巻より一部加筆

 

☆そのほかの名前のある坂

学園坂 天王寺区松屋町筋の学園坂交差点から谷町筋の六万体交差点へ上る坂道。天王寺七坂の源聖寺坂と口縄坂の間にあり、人によっては学園坂も含めて天王寺八坂と言いたくなるかもしれない。車両は坂の下から上(西から東)への一方通行。車道・歩道とは独立した自転車道が併設されており、自転車は下り方向も通行可。名前の由来は大阪夕陽丘学園があることから。
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相合坂 天王寺区の高津宮(高津神社)の参道の一つ。明治後期に作られた石段で、南北2つある登り口から男女が登り始めて合流地点で丁度出会うとその2人は相性がいいという。
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西坂(縁切り坂) 天王寺区の高津宮(高津神社)の参道の一つ。昔、三曲がり半の九十九折りになっていた石段で、三行半(みくだりはん)の離縁状になぞらえて縁切り坂と呼ばれた。
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北坂 天王寺区の高津宮(高津神社)の参道の一つ。石段の参道。
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高津坂 天王寺区の高津宮(高津神社)の表参道。表門坂とも。

一心寺坂 天王寺区の一心寺南門の前の坂。一心寺の植え込みに坂の名前が刻まれた石がある。
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地蔵坂 中央区谷町9丁目の一向山専修院の前の坂道。谷町8交差点の西側道路で両側歩道付き2車線道路。専修院の門前に坂の名が刻まれた碑がある。
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観音坂 中央区谷町6丁目の市立桃園幼稚園の前から谷町筋へ上る石段の坂。坂の名前の碑がある。
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心眼寺 天王寺区餌差町、心眼寺の前の坂。歩道の柵に坂の名前の標識がついている。途中に真田丸跡の石碑がある。
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鶺鴒坂 天王寺区清水寺の境内、仮本堂前の石段の登り口に鶺鴒坂と刻まれた石柱がある。
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法円坂 中央区。坂道の名前というより一帯の地名としてよく知られている。
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☆あべの七坂
阿倍野区にある7つの名前付きの坂の総称。いずれも坂の登り口に名前の刻まれた標石がある。

相親坂 阿倍野区相生通2丁目にある。相生通に住む人たちが王子町へ買い物に行くときこの坂のあたりでよくあいさつを交わしたという。
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相生阪 阿倍野区相生通1丁目にある。この坂道はこざとへんの阪の字を使う。坂の名前の由来は東西の町がこの辺りで接することから。
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みなみ坂 阿倍野区北畠2丁目にある。
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みどり坂 阿倍野区北畠3丁目にある。標石はもともと登り口あたりにあったが、車が曲がるときに巻き込まれやすい位置だったので坂の中ほどに移された。
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やしろ坂 阿倍野区北畠3丁目にある。阿倍野神社が名前の由来。
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さくら坂 阿倍野区北畠3丁目にある。名前の通りかつては桜が美しかったという。
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みや坂 阿倍野区北畠3丁目にある。阿倍野神社が名前の由来で、正面参道につながる坂道。
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☆『上町台地 涼水七坂』
 「第2回ヒートアイランドに配慮したまちづくり・アイデアコンペ」(2011年度実施)で都市デザイン部門最優秀賞を受賞した提案。藤村幸司さん(大阪府立大学大学院生)により中央区の特徴的な7つの坂が選定。いずれの坂も看板などはない。
第2回ヒートアイランドに配慮したまちづくり・アイデアコンペ

法円坂 中央区法円坂2丁目と内久宝寺町2丁目の間、大阪医療センターの西側の坂。
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龍造坂 中央区龍造寺町
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榎木坂 中央区安堂寺町。坂の上り詰めに榎木大明神という小さな祠がある。
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松屋 中央区松屋町。地下鉄松屋町駅3番出口すぐ。
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瓦屋坂 中央区瓦屋町。
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中寺坂 中央区中寺。
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高津坂 中央区高津1丁目。高津宮の表参道。
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☆看板などがない坂
名前が有名でなかったり場所が分かりにくかったりするような、場所や名前が不明瞭な坂。

聖天坂 西成区。坂道の名前を示す看板などはない。阪堺電車の聖天坂駅や聖天坂を冠したマンションなどがあるが、特定の坂道のことではなく一帯の地名かもしれない。聖天は聖天山にある正圓寺のこと。
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筆が坂 
天王寺区筆ケ崎町。坂の名前は地名から。
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桃坂 
天王寺区筆ケ崎町や細工谷あたりを指す通称地名?。医院、マンション、スーパーマーケットなどの屋号に用いられている。かつて一帯の高台は桃山と呼ばれ、桃山、桃谷、桃園などの地名や屋号が残る。
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勝鬘坂
 天王寺区の大江神社の石段の参道のこと。摂津名所図会などに記載されている。
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雁木坂(ダラダラ坂) 大阪城公園内、豊國神社北東の内堀に面した坂道。江戸時代は長い石段の坂であったことから名前が付いた。陸軍時代にはダラダラ坂と呼ばれた。
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尾止坂跡 大阪城公園内、西の丸庭園にあった坂。
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狸坂 中央区粉川町6丁目の南大江公園南西から松屋町筋へ下る坂道。かつては幅1メートルほどの狭くて急な石段の道だったという。公園敷地に狸坂大明神の小さな祠がある。
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あいどり坂 中央区玉造。
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どんどろ坂 中央区玉造と上町の間、空堀町交差点の北。どんどろ大師善福寺にちなむ。
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かぎや坂 中央区
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ほくちや坂 
中央区法円坂と上町の間、玉造2丁目交差点の西。伊勢屋という火口商にちなむ。火口(ほくち)とは着火を助ける燃料のこと。
 『大坂商工銘家集』(1666)(『日本古典籍データセット』(国文研等所蔵))に「本家カネキ(キに┐) 玉造紀伊國町南側 ほくち卸所 北むくや甚兵衛」とある。紀伊国町の旧町名継承碑がほくちや坂の登り口にある。 
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三韓 中央区円珠庵から西へ下る坂。
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安国寺坂 中央区農人橋。恵瓊坂とも。中央大通りの南側歩道部分が道路拡張前の農人橋通りに相当し、農人橋から谷町筋へ上る坂をそう呼んだ。安国寺恵瓊の屋敷があったことにちなむという。
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太夫殿坂 福島左衛門太夫正則の屋敷があったことに因むという。
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大江坂 中央区釣鐘町あたりの坂。大阪城の西側、上町台地に面する浜を大江浜と呼び、付近の坂を大江坂と呼んだという。現在、釣鐘町2丁目の坂の途中に保存されている大坂町中時報鐘は大江坂釣鐘ともいい、地名の由来となった。
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女坂(正圓寺参道) 阿倍野区の正圓寺の参道の1つで、松虫通から続く坂道。2017年から2019年の間に標石が撤去された。対応する男坂があったのかなかったのかは不明。
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こんぴら坂 空堀商店街にあった金毘羅社にちなむ。百度石が残るのみ。
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温泉坂 中央区谷町7丁目と上町2丁目の間。空堀商店街の南側にある坂。桃谷湯という銭湯が営業していたが、今は駐車場になっている。
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呉坂 磯歯津路(しわつみち)を住吉から喜連に行く途中にあったといわれる坂。『摂津名所図会大成』は喜連村の西にあるというが、正確な所在地は不明。磯歯津路は今の長居公園通とルートをほぼ同じくする街道で、古代、外国使節が奈良を目指して通ったことから呉坂の名が起きた。この辺りの丘を四極山(しわつやま)といった。また旧西除川との交点(概ね近鉄南大阪線長居公園通の交点)付近には天神山があったという。
大阪市東住吉区:044 磯歯津(しはつ)路 (…>東住吉100物語>道路・街道・交通)

 

☆番外編
なみはや大橋 大正区鶴町と港区海岸通を結ぶ歩道付きの道路橋。急な勾配を登るのに自動車がアクセルを踏み込むので、大阪のベタ踏み坂と呼ぶ人がいる。テレビCMでベタ踏み坂として有名になった鳥取県江島大橋にあやかったもの。
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空堀商店街 中央区谷町6丁目にある商店街。ほぼ全体が坂道。
空堀商店街 公式ホームページ ~大阪の歴史とともに~

『幻坂』 有栖川有栖の短編小説集。天王寺七坂を舞台にした怪談が収録されている。→「幻坂」 有栖川 有栖[角川文庫] - KADOKAWA

「坂」の地車囃子 大阪の代表的な祭りの山車であるだんじり地車)が坂を通るときに鳴らすお囃子。

youtu.be 
fumatori dankichi、2014/8/30 城東まつり 蒲生聖賢地車 かやく「坂」、1:25-4:24

 

☆『旅行百話』に載っている「大阪の坂」
 『旅行百話』(大月杢助,大正2年)のp176-177に大阪の坂が列挙されている。
逢坂、口縄坂、源聖寺坂、地蔵坂、毘沙門坂、猫坂、隠坊坂、油屋坂、辨天坂、吉野坂、幽霊坂清水坂、小橋坂、南坂、御藏跡坂、妙見堂坂、新墓坂、猫小路坂、湯屋坂、琴坂、お亀坂、近松坂、簑坂、躑坂、法圓寺坂、渡坂、田舎坂、學校坂、雷坂、ホイホイ坂、天神坂、安居坂、首切坂、油掛坂、黒門坂、弓引坂、伏見坂、猿曳坂、片道坂、切坂、踏切坂、眞言坂、花見坂、丁稚坂、相合坂、夕暮坂、千本坂、締縄坂、隆任坂、戎坂、横道坂、お傳坂、御靈坂、住吉坂、片袖坂、兵隊坂、櫻坂、山田屋坂、警察横坂、御船坂、火除坂、○○坂、會社坂
旅行百話 - 国立国会図書館デジタルコレクション

 

参考にした資料

 大阪市立図書館 天王寺の七坂について https://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=mu4hgdu4a-8993
 坂学会 「大阪府の坂」リスト http://www.sakagakkai.org/profile/list-Osaka.html
 井上正雄 著『大阪府全志』 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/965798 ほか
 坂道|オオサカマニア|Osaka Metroが届ける大阪のお出かけサイト https://osakamania.jp/mania/hill/
 オオサカメトロ2015年度大阪・まち・再発見ぶらりウォーク第8回上町台地から天王寺七坂めぐりウォークのマップ https://subway.osakametro.co.jp/tourism/library/20200727_burari_back/2015%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E7%AC%AC8%E5%9B%9E%E4%B8%8A%E7%94%BA%E5%8F%B0%E5%9C%B0%E3%81%8B%E3%82%89%E5%A4%A9%E7%8E%8B%E5%AF%BA%E4%B8%83%E5%9D%82%E3%82%81%E3%81%90%E3%82%8A%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AF.pdf
 辻本伊織 「大阪の坂道研究」 第3章 失われた坂を求めて https://www.osaka-kentei.jp/pdf/2017/osk_houkoku2017_04.pdf


など